Many classic moments
そのニュースが飛び込んで来たのは、午前六時 三十分。
速報の文字と共に。
流れた言葉は、嘘だとしか思えない現実。
季節外れのエイプリル・フールを、私はまだ期待していた。
耳が慣れた音を辿る。
家の電話、貴方からのコール。
「もしもし、晴? 何で携帯じゃないの?」
「回線が混雑してて、家に繋がったから良かったけど、 あ、ニュース見たか?」
余程、焦っているのか、早く私の元に電話をかけようとしたのか、
何時もの貴方じゃないみたいな、ダムの決壊みたいな。
「うん」
やっとの思いで出した声は、掠れて。 少し涙が出そうになる。
御願いだから、言わないで。
貴方の言葉を信じざるを得なくなる。
ねぇ、御願い
「地球が滅びる、ってどう言う事だ?」
NASAとか、ニュースとか何してんだ?
こんな凄いこと予告できなくてどうするんだよ!
震える、貴方の声。
それ以上に震える、私の手
「大好きな人たちにお別れも何も言えてないよ・・・・」
出せる言葉は此れ位しか無い、
そう、予想していた事態よりも、事実は何もかもを大きく上回っていた。
「彩、家族に連絡取らなくて良いのか?」
「そうだ・・・・・・・ね、最後だもんね」
晴には言ってない、私が家を飛び出してこの街に来たこと。
親とはもう絶縁状態で、ここ何年も連絡を取っていないこと。
「俺、今からお前の所行くから。 電話掛けろ、親御さんに」
「うん」
晴から孤児だったと言う話を聞いた事がある。
だから、彼の口癖は「家族を大切にしろよ」だった。
その言葉を、聞く度に胸が痛んだ。
ダイヤルを押す、彩の指には躊躇いが無い。
『最後の電話』 御願い、出て、繋がって。
「只今、回線が混雑しております、しばらくたった後――――・・・・・」
彩が肩を落とすと同時に玄関の方で金属質な音がする。
「彩、親御さんに連絡ついたか?」
彼の顔を見上げる、彼の汗ばんだ頬を見るだけで涙が出そうだった。
私はこんなに弱い女だったのか、ふと考える
「ううん。」
「そうか・・・・・・・」
「ねぇ、晴。 聞いて」
彼は私がソファーに座ると、磁力に引き寄せられるように、
私の横に座る、そして真摯な眼差しを私に向ける。
出逢った頃は苦手だった、貴方の瞳、その眼差し
今は大好きな、貴方の瞳と、その真摯な眼差し
「私、親に黙って此処に出てきたの。 最初は携帯に電話が何度も掛かってきた」
でも、と口が強張る。 自分の過去はなんて詰まらなくて。
愚かで、自慢できることはたった一つ。
『貴方と出逢ったこと』 それだけが、私の人生で唯一つ自慢できることだった。
「でも、そのうち掛かって来なくなった、だからもう絶縁状態なの」
「うん、そんな事だろうと思った」
貴方は春の空のように、朗らかに微笑む
「大丈夫、生きているんだからやり直せる」
彼は、暖かく私を抱き寄せた。
「会いに行くんだ、時間が無いから」
「うん・・・・・・」
語尾が弱くなる、ああもう心配させないとか、出来ないのか自分は。
「車、出してやる。 さぁ、キー持って、下に来て」
彼はソファーを軋ませ、床を軋ませ、ドアの方へ歩いていく。
「えっ、良いよ。 私、運転できるし」
「知ってるよ、それくらい。 俺が一緒に行きたいんだ、迷惑?」
それに一度くらい、彩の親御さんに挨拶したいしな。
そう呟いた彼の頬は、初めてキスをした時のような色。
私は鞄からキーを取り出して、貴方に手渡す。
『迷惑じゃないよ』
言葉には、出さない。 何故か、それの方がしっくりくるから。
ドアの前の鏡で、自分の顔を見る、あぁいつもより貧相だ。
「メイクしてないからか」
笑っちゃうね、彼に会う前は何時も念入りにチェックしてたのに。
今の私は、寝る前に塗ったリップクリームだけ、それももう乾いているかも
「置いてくぞー」
「私が親に会いに行くのに、置いてってどうするのさ」
「それもそうか、どっちにしろ早く行ったほうが良いかもな」
「そうだね、あぁ・・・・・空が蒼い」
空の蒼さが、目に沁みて。
目を擦ると、太陽と烏の白と黒のコントラスト。
あぁ、こんなにも世界には色が満ちていた。
ほら、貴方の指が綺麗な色で、私を誘う。
車のキーは、何者にも染まらない黒色で。
車の色は、シルバー。 そろそろ買い替え時、塗料が少し剥げてきている。
勿論、カーナビなんて付いてなくて、晴と一緒に住んだら買い換えるつもりでいた。
車に乗り込むと、貴方は一つ飴をくれる。
彼曰く、酔い止めの薬。 私にとっては、貴方のキスの味。
そんなに回数はしないけれど、しっかり体が覚えてる。 貴方の唇の味。
重大なことを思い出す、ああなんて私は馬鹿なんだ
「孤児院の園長に世話になった、って言ってたよね」
「ああ、どうしたんだ、行き成り」
下唇を少しだけ噛む、紡ぐ言葉に精一杯の嘘を織り交ぜる。
「会いに行って。 私は一人でも平気だから」
「俺じゃ、嫌なのか? 頼りないか?」
「ねぇ、貴方は、私がどれだけ貴方のことを好きか、知らないでしょう?」
「俺は、最後の瞬間にお前が隣に居ないかもしれないと思うと、怖いんだよ」
「大丈夫、私は絶対に貴方の元に帰ってくるわ」
だから、貴方も私の元に帰って来て。
外に立った彼は、私にキスの雨を降らせた。
「おう」
少し俯いて、それだけ言うと私が車を出すのを手を振って見送っていた。
車を高速に乗せると、思ったより車が少なくてどんどんと進めた。
こちらの車線には少し車が居たが、対向車線にはまったく車が居なかった。
それからもう少し車を走らせると、家族連れが歩いてくるのを見かけた。
高速道路で人が歩いているなんて・・・・・・。
「あ・・・・・・、ああ・・・・・・・・。」
一台の車が道を塞ぐ様にして、壁に衝突した様で後続の車もそこに突っ込んだ様だった。
その後の車は、乗り捨てられて置き去りにされていた。
どうやら、私も置き去りにしないといけない状況のようだ。
幸い、実家は近かったので良かったが・・・・・・。
「じゃあね」
家出女の初めての相棒が彼だった。
涙を堪えると、私は「さよなら」と言った。
処々が剥げて、その上くすんだ銀に朝方の空は、何故かよく映えた。
その青を少し滲ませて、私は家に向かって走り出した。
こんなに走ったのは久しぶり。
だって、遠出するときはいつも『彼』に乗って居たから。
そして、少し足を止め、呼吸を整えてまた走り出す。
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長い気がしたので、無理やり半分に分けました!
やっぱり、でも長い方が好きです。
短いのを10本書くより、長いのを2、3本書いた方が幸せだもの。
他の人がどう思うかは分からないけれどもね
06/10/09 Ichico Akesora
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