何故? 神様教えて。
委員長のような顔も良くて、スタイルも良い
私たちの憧れで、そんな素敵な人が、
こんなにつらい道へ行くのは何故?
Mellow beauty
駅で待ち合わせた親友は、高校時代の時とまったく変わらなかった。
「久しぶり、雨」
「うん、久しぶりだねー」
「雨、ごめんね。 こんな時間に・・・・・」
「ううん、いいの。 あの委員長が私を頼りにしてくれたのがすごい嬉しい」
相変わらず可愛い顔で、笑う。
細胞が全て、高校時代に戻っていくような、そんな気がした。
バーに着くまで、色々な話をした。
本当に色々な話を。
「亮と上手くやってる?」
「まぁまぁね。 でも少し前、不倫してるみたいな気がしたの」
胸が痛くなる、でも聞きたかった、どんな気持ちなのか。
「結局、してなかったんでしょ? でも、どう思った?」
「うん。 すごく苦しかった。 でも信じてたから」
私は初めて自分がした事の愚かさに気付いた、でも私にとっては不倫なんかどうでも良かった。
相手の奥さんの事なんて考えていられなかった。
ただ相手に奥さんが、子供が居るだけ。
そう、思うことで自分の恋を正当化しようとしていた、そうするしかなかった。
「委員長、何か話したい事あって呼んだんじゃないの?」
勘が良い、人の気持ちに雨は人一倍。
「うん、私ね、今愛人してます、って話」
雨の顔を見るのが怖かった、最近の私は人と向き合う事を恐れ、怖がり、怯えている。
「そう、辛かったねぇ・・・・・・、璃奈ちゃん」
『委員長』では無かった、その言葉には彼女なりの優しさが沢山詰まっていた。
「うん・・・・」
思わず、涙が出た。
人の優しさが嬉しくて、温くて、悲しくて、辛くて。
薄く塗ったチークを温かい涙が溶かしていった。
「ほらほら、委員長、化粧が落ちるぞ」
雨が笑って言う
口角が上がる、雨の笑いは幸福を呼ぶ気がする
「私たち、化粧が落ちると不細工なんだから」
高校時代を思い出す、昔は泣いたら三人でよく言った。
こう言われたらいつもこう返すのが常だった。
「雨だけでしょ?」
雨の顔が輝く、私の顔が綻ぶ。
もう笑えると思わなかった。
ずっと泣いて過ごすと思ってた。
「どう? 結婚生活は?」
そういえば結婚式行けなくてごめんね、と付け足して。
「ううん、いいの。 まぁまぁかなぁ」
照れた顔して言う、こんな所も亮は好きになったのかも知れない。
「夜の方は、どう? ちゃんと繋ぎ止めておかないと駄目よ」
好き合ってるなら尚更
これ以上不幸は要らないんだ、って。
ツマミ片手に、シャンパンゴールドのお酒と共に。
お酒も進んで、二人で笑い会って、もう一人の親友の話もしたりして。
「私ね、別れようと思ってるんだ」
ふと、話が途切れ、彼女は私の唇をただ見つめ、そして、一言呟いた。
「いいの?」
彼女は、さっき運ばれてきたばかりのパスタを皿の上で踊らせ、
なだめる様な、それでいて不安そうな声を出して、私のほうを見た。
うん。 と、天井を見上げて呟くように言う。
そうしないと、私どんどん壊れていくから。
何が『普通』か、もう分からなくなってしまったの。
『普通』なんて無いのかもしれないけれど、他の人に自慢できないような恋は、
私は、『普通』だと思えないから。
そう言うと、次第に目頭が熱くなって、目の前が滲んだ。
「だから、もう・・・・・・・」
「もういいよ、分かった・・・・・」
そう言って、深く溜息をついた私の肩を抱き、ねぇ、と呟いた。
「貴方は世界で一人ぼっちじゃないよ」
雨はうん、と自分も確かめるように頷いてこう続けた。
「悲しい終わり方だって良いよ、でも後悔だけはしない、終わり方を選んで」
雨は私に額をあわせ、涙を目に溜めていた。
「私の為に泣いてくれて有難う」
私がそう言うと雨は笑って、薄いピンク色のカクテルを喉に流し込んだ。
バーを出て、雨と別れあと、川沿いの道を独りで歩いた。
川には、春の月が水面に移って揺れる。
川沿いに植えられた桜は蕾を膨らませ、今にも薄桃の小さな花びらを咲かせそうだった
「じゃあ、帰ろうか」
返す言葉の無いまま、私は一人帰路についた
次の日、私は荷物をまとめた。
自分の思い出を箱に詰めるのは、思ったよりも辛い作業だった。
貴方に貰った指輪を、本を、ハンカチを、
貴方と言った場所のレシートだって、わざわざ貴方に貰ってある
それをすべて、箱に詰めた。 写真一つも残さずに。
茶色のどこにでもある普通の段ボール箱に、
私の特別な思いを入れて、封をした。
涙はもう出なかった。
我慢していたのか、もう枯れてしまったのか。
その時の私には、もう考える力が出なかったのだと思う
彼との恋が私に与えた物は、とてもとても多かったけれど
その分の悲しみや、痛みは何物にも代え難かった。
それから、宅配便に荷物を預けた。
彼に貰った物は、すべて捨てた。
こうしないと、今にも縋ってしまいそうで決意が鈍りそうで。
怖くて怖くて、居た堪れなくて。
私は手荷物だけが転がる、空っぽの部屋に戻った。
家具は、備え付けの物だったのでそのままで良いらしい。
私は、この部屋との別れを惜しみながらまどろんでいった。
窓から柔らかな光が私を照らしている
あぁ、また、朝が来た。
貴方が居ない朝が来た。
貴方が居ない朝の方が、今までだって多かったけれど
部屋の雰囲気が物語る、貴方の不在は
物が無くなった部屋も、手伝ってか必死に閉じようとしている心の傷を、
痛ませ、苦しめ、悲しめた。
この服に袖を通すときが来たのだと、心の痛みが教えた。
貴方と別れるときに着ようと思っていた、とっておきの服。
それと、最低限の荷物と鍵を持って部屋に別れを告げた。
管理人に鍵を渡し、別れを告げた。
駅に着いた、駅は人もまばらで新幹線に乗る人もごく少数のようだった。
新幹線の切符を駅員に渡して、ホームへ向かって歩く。
階段を一歩一歩、踏みしめて階段を登る。
ホームへと上がった時、私は見てしまった、見つけてしまった。
柔らかいウールの茶色いコート、本皮の手袋、毎朝セットしている上げた髪
何処に居ても、見つけてしまう。
人混みの中でだって、私は貴方を見つけられる。
私はゆっくりと歩いて近づく。
平然を装う、この恋で学んだことの一つだった。
「何故、来たんですか」
「君を送る、それが僕のけじめなんだ」
何のけじめですか、喉元まで出掛かった言葉を飲み込む
「分かりました、じゃあ・・・・・・、乗りましょうか」
そう言って、二人で乗り込んだ。
新幹線の中は思った通り、人が少なくて一車両に10人は居ないだろうという位だった。
入口から3列目の席に座る。
私は窓側に座り、貴方はその斜め前に座る。
手も重ねられない、触れられない、目も直には合わない、体温すらも遠い。
そんな、位置だった。
私たちは、ずっと喋らなかった。
一言も、一語も。
私は貴方の優しさに触れたら、崩れてしまうから。
貴方はどう思っているのか、見当もつかなかったけれど、
黙って外を眺めていた。
私もつられる様に、窓の外をただぼんやり眺めた。
草木は青々と、空も青々と。
雲は俯瞰で、私とは正反対の煌煌した人々を、見守る。
久しぶりの景色、少しも変わってない私の故郷。
新幹線がホームに滑り込む、景色が灰色に変わっていた。
先に沈黙を破ったのは、貴方だった。
「降り・・・・・・、ようか」
立ち上がり、膝にかけてあったコートを着る、貴方の背中を見ながら、考えた。
「・・・・・・はい」
貴方は私が、このまま何処かへ行こう、と誘ったら、
言ってくれるかしら? 頷いてくれるかしら?
馬鹿な考えばかりが浮かぶ、閉じ込めていた思いが溢れそうになる
だって期待するじゃない。
送ってくれたら、期待しちゃうじゃない。
先に立ち上がった、彼の追う様にして降りた。
「課長、ありがとう、ございました」
息が詰まって、頭を下げる。
何か、喋って。 でも優しい言葉は掛けないで。
その代わりに、貴方の手が肩に置かれた。
そして、胸に引き寄せられる。
貴方の、心臓の音が頭に響いて、鼻腔いっぱいに煙草の香りが篭る
「君と、離れたくない」
耳元で囁く貴方は、低い声で私を攫おうとする。
あっちでは咲いてなかった、桜の花びらが、私の目の前を舞う。
貴方にさよならするわ、私。
ただ御願いだから、気付かないで。
肩の滲みに、御願いだから。
きっと、貴方のこの逞しい腕に抱かれるのも、最後だろう。
肩を押し返す、最後のこの温もりを、私は忘れない。
「何、言ってるの? 貴方、言ったでしょう?」
僕は妻とは別れられない、って。
そう言う、私もそれを承知で関係を持ったのだ。
こんなに、貴方を好きになるなんて、思わなかったから。
「なぁ・・・・・、一つ聞いてもいいかい?」
私は首を少しかしげて、また課長を見つめる。
「僕のこと、好きだったことが一度でもあるかい?」
私は下を向いて俯いてしまった。
そうすることしか出来なかった。
今にも涙が零れそうだったのを、目を瞑って抑えるしかなかったから。
「・・・・・・分かった。 かえってスッキリしたよ」
「君は最後まで、僕に心を許してはくれなかった。 思い返してみると、ほら。 僕は君の誕生日さえ知らない」
言える訳ないでしょう?
貴方の娘と同じ誕生日だ、なんて。
妻とは、子供とは別れられない、と言った貴方に。
「じゃあ、もう私みたいな女には引っ掛からないで下さいね」
貴方はふと溜息をついて、目を伏せる
「君は本当に・・・・・・・」
「なんですか?」
「いや、なんでもない」
そうですか、と私は気付かれない様に、小さく溜息をついた。
「じゃあ、奥さんを大切にしてくださいね」
貴方が新幹線に乗るのを、新幹線が発車するのを、ただ見つめていた
風で、涙が、私の変わりに、貴方を追っていく。
少しの間、新幹線が消えるまで。 と線路の彼方を見ていた。
「璃奈」
後ろから、あの人の声がした。 貴方の大切な人の。
「千砂、何故、此処に居るの?」
「私の故郷だもの。 居ても良いと思わない?」
私と、千砂は同じ場所の出身で、会社も同じ部署だった。
すぐ仲良くなった、でも千砂と私は同じ人が好きだった。
彼女は気付いてなかったのだろう、悩みや惚気を聞いた。
仕方ないと思った、でも諦めれなかった想いが、貴方の所為で溢れた。
抱かれるたび、抱きしめられるたび、愛の言葉を囁かれるたび。
「やっぱり、噂は本当だったのね」
「ええ、でも別れたわ。 あの人は貴女と別れられない、と言って」
千砂がハイヒールを鳴らして、近づいてくる。
「私、貴女に謝らなければいけない事があるの」
彼女は私をベンチに促した。
私は彼女に、先に座ってもらい、缶のカフェオレを2つ買い、
ベンチに向かって歩いた。
「はい」
カフェオレを手渡す、彼女が笑う。
私も微笑む。
カフェオレの温かさが、まだ少し寒い春には、優しかった。
「私、あなたがあの人の事を好きだって事、知ってた」
そう、そう言ってカフェオレを口に含む。
程よい甘味が、冷たくなった口の中を満たしていく。
「私、貴女に酷いことした」
「私も貴女に酷いことしたわ、きっと私の方が」
それから、続けた、一から始めるために。
「おあいこにしましょ、私が言うのは・・・・・・、図々しいけれど」
私は、それでも彼女が憎くて堪らなかった。
なんで一番最初に私の事選んでくれなかったの? なんて。
彼女が私の立場になってしまうのも、それはそれで嫌だ。
「じゃあね」
私はパンプスを鳴らす。
これからもきっとハイヒールを履くことは無いだろう。
「水木さん、今回は当社の独占取材に応じてくださり、有難う御座います」
数台のカメラとインタビュアーが一人。
取材は私と彼が、初めて会ったあのカフェで行われた。
「やはり格好いいですね、いやテレビで見たときよりも格好良い」
「ありがとうございます」
では、始めます。 インタビュアーは録音機のスイッチを押した。
「一年で服のブランドを立ち上げた水木さんですが、そのきっかけとは?」
「報われない、恋をしていたんです。 その人を想って作ったんです、有りがちですね」
ここまですらすらと言えてしまう自分に、吃驚した。
寧ろ、これは貴方から少しでも、遠ざかるための作業なのかもしれない。
インタビュアーは少し頷く、とても穏やかな顔だった。
この頃からだろうか、カフェの人たちがこっちを気にし始めたのは。
「水木さんのブランドは、服のサイズが多いですよね? それはどうしてでしょうか?」
ふと、気付く。
私はもしかしたら貴方の為だけに、このブランドを作ったのかもしれない。
改めて気付く、こんなに私は貴方のことを想っていた。
心の奥に、閉じ込めていたはずの、貴方への気持ちが堰を切るように溢れ出す。
「その人が身長が高くて、それだけだったんです」
手袋もこんなのが欲しい、って彼が書いたのをアレンジしただけなんです。
ネクタイだって、彼に似合うものを考えただけなんです。
鞄だって、彼が会社員だったから機能性が高まっただけなんです。
「私は、格好良くなんか、ないんです」
ただ、あの人の事が好きなだけなんです。 そう言って、顔を上げると、皆涙を流していた。
「私、どうして貴方がそんなに格好良いか、分かりました」
インタビュアーが優しい声で言う
「恋を全うしたからですよ、出来る人は多くありません」
人を、愛し続けているからです。
この世で一番美しいものが、貴方は分かっているのです。
だから、あなたも美しい。
だから、貴方の作る服は汚い言い方ですが、売れるんですよ。
インタビュアーが息もつかせず言う。
それを聞いて、私は泣いた。
禁断だと思っていた気持ちが、美しい、と言われたからなのか。
恋を全うしたと言われたのが嬉しかったのか。
きっとその両方だったのだろう。
私はまた泣いた。
交差点の真ん中で泣いた時のように。
でも、今度は私の為に、私の為だけに泣いた。
今でも駅のホームで立ち尽くしている私の為だけに、泣いた。
そして、横で貴方に似た目元を持つ、
この子の為に涙を溜めた笑顔で微笑んだ。
*--------------------* * END * *--------------------*
ここまでお読み下さり有難う御座いました!
この作品は2週間ほど前には出来上がっていたのですが、
少し読み辛かったり、これは必要だなぁ、と思うものを、添削したのです。
私は小説書くのが下手なので、じっくり自分の作品と向き合って、書かなきゃいけないのです。
だから、本当の本当にカメだけど、これからも宜しくお願いしますね。
このMiss四部作は、日常性活でよく使う言葉を季節ごとに書いています。
このMiss四部作の中には仲良し三人組の「雨」「璃奈」「香名子」が出てきます。
Many classic momentsの「彩」だけは関係ないのです(もしかしたらのすごく未来だから
ではでは、次は冬の「香名子」のお話で会いましょう!(ぶっちゃけ何を書いたら良いか決まってません!
06/12/31 Ichico Akesora
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