私は、目を瞑る。




大輪の咲く、夜空の下で。




この空で、私は小さな奇跡と、大切な思い出と手を結ぶ。









Miss  0:00になったら。









ドラマの中で見たのと同じ光景。


ぐったりとした体、傷ついた頬、異常な量の包帯。


頭には包帯が巻かれていなかった。


「委員長・・・・・・・、香名子・・・・・・・」


「雨・・・・・・、大丈夫よ、大丈夫。 殺したって死なないんだから」


委員長の整った顔は、目の下が腫れ、泣いた後が。


「雨、大丈夫? ごめんね、私こんなに泣いて・・・・・・」


「泣いてあげて、人が泣くと放っておけない人だから。 それに」


私は、泣けないから。


「ねぇ、亮。 貴方、私を残して何処に行くの」


息を吸う、病院の独特の匂いが肺に充満し、咽返りそうになる。


「ねぇ、お母さんの事、貴方が守らないで誰が守るのよ!」


病室のガラス窓を必死に叩く、病院の看護師に制止されても叩き続ける。


集まってきた人たちは固唾を呑んで、この状況が良い方向に変わるのを望み、見守っている。


「お母さん・・・・・・・」


「亮のお友達? 今日は美味しい物作ってやる、なんて言ってたのよ、あの子」


違う、と否定する気力はもう残っていなかった、それに目の前の人はもう砂の様になってしまいそうだった。


亮の母親は、何処となく儚げな雰囲気がある人だった。


「亮は幸せね、こんなに友達が居て、愛されて」


気付けば病室の前には、私の見たことのない人も合わせて、ざっと20人は居る様だった。


「そうですね、だからこんなに傷ついているのが嘘みたいなのでしょうか?」


「そうね。 この中に混ざっていそうね、亮が・・・・・・、あら? 着物?」


「私、着物着たままだったんだ。 やだなぁ、場違いですね」


「そういえば、今日は夏祭りだったわね。 ごめんなさいね、楽しみにしてたでしょう?」


「いいんです、亮と、片桐君と行く約束してたんです」


「もしかして、貴方、如月 雨さん?」


「はい」


亮の母親は、自分のハンドバックを開き、白い封筒を私に渡した。


「如月 雨様へ」


元は純白だったのだろう、だが今は血の斑点が所々に見られた


「今日帰って来て直ぐに書き始めてね、明日早く起こして、って」


朝、貴方の所に届けに行くつもりだったんじゃないかしら。


糊を剥がす音が、病院に優しく響く。


非日常の世界に、聴き慣れた音が響く。


それだけで、泣きそうだった。


それだけの事だったけど、「嘘だよ」誰かが言ってくれるのを、私は未だに待っていた。


便箋を取り出し、封筒を自分の鞄の中に仕舞う。


「拝啓 雨様」と、書かれて始まった手紙は、彼の片思いの時間を埋めるかのような。


追伸まで読み終わった私は、一息つき委員長と、香名子を誘って自販機まで行った。


「皆の分も買おうか、皆疲れてるだろうし」


私が誘ったときは、委員長も香名子も落ち着きを取り戻していた。


「お金は? 私も払うよ」


香名子が言い、私は首を横に振り、大丈夫と言った。


「お祭りのお金があるから」


そう言った後に、後ろで二人が悲しい顔をしてるなんて分かってたけど。


私は、泣いて人に縋れるほど甘え上手ではなかった。


気付いたら、夜は明けて朝焼けが綺麗に病室を照らしていた。


「夕焼けも綺麗だけど、朝焼けも綺麗なんだよ、亮」


私、気付いたよ。 朝焼けってこんな綺麗なんだね。


どうしてだろう、凄い切ないよ。


なんで隣に、居ないの?


病室の亮の様子は変わらない、私達は外のレストランで食事をした。


「私ね、雨は弱い子だと思ってた」


委員長がパンを齧りながら、ぽそりと漏らす


「儚げで、崩れそうで、片桐がこんな事になったから雨を支えなきゃ、って思ってた」


ここで、委員長が言葉を噤んでしまう。


「でも、違った」


その後に、香名子が続ける


「貴女はありのままを受け入れて、あの場所で初めて彼の事故を認めた、そして誰よりも早く回復を願った」


「・・・・・・そういえば、貴女には言わなかったけれど、事故を起こした人が捕まったそうよ」


そう。とだけ私は言い、サラダのトマトを齧った、甘味と酸味が口に伝わる。


亮が、回復したら美味しい物いっぱい一緒に食べよう。






病院に戻ると、もう時刻は昼を過ぎていた。


それでも、亮は目を覚まさなかった


私は委員長と香名子を家に帰らせて、病室で鞄に入っていた小説を読む


もう読み終わっていた本だったので、ページを捲る手が早く動いてしまう。


病室には、亮と私だけだった。


彼の顔を見ながら小説を読む、何故だか亮は寝てるだけ、と思ってしまう、そう願いたかった


病室のドアが開く、亮の母親だった。


「あら、如月さん、まだ居たの? 貴女も一度帰りなさい、親御さんが心配しているわよ?」


彼女は笑う。 穏やかな笑顔だった。 もう何が起きても平気なのかもしれない。


彼女の目は、全てを受け入れる覚悟を滲ませていた。


「さっき、親が来ました。 だからきっと平気です」


とっさの嘘だった、でも親には昨日電話しているから平気だと思う


「そう。 じゃあ浴衣も着ていることだし、お祭りに行ってらっしゃい」


此処に居ると、気が滅入ってしまうだけでしょ? そう笑った彼女の顔にはすこし悲しみが混じっていた。


「はい。 じゃあ行ってきますね・・・・・」


夏祭りは凄い行列だった。


私は晩御飯を買って、ラムネを買った。


そして毎年行く、とっておきの場所に行った。


夏祭りの場所より少し遠い神社が、私のとっておきの場所だった。


何故かと言うと・・・・・・・・


「あ・・・・・・」


目の前で、花火が咲き乱れる。


赤、青、黄、白、色とりどりの火が夜空を彩る。


ねぇ、私、亮と一緒に此処に来たかったんだよ、今日。


一緒にラムネ飲んで、笑って。


其れだけで十分なのに。


「馬鹿だな、私」


無くしてから気付いた、こんなに好きだった。


ああ、本当に馬鹿だ。


失ってから、気付くなんて。


こんなに好きだなんて。


花火を一人で見るなんて。


貴方がいるのが、ああ。


もう、どうして。


「好きだよ、亮」


冬でもないのに震えた声。


貴方の泣く場面によく直面するのは、貴方をいつも見てるから。


来るな、と言われたのを覚えているのも、それがショックだったから


彼女が居なかったのを知ってるのは、貴方の事が・・・・・・・・・


気付けば私の視界はぼやけ、夜空のキャンパスに描かれた大輪の花は滲んでしまっていた。





どれだけ長い間、そうしていただろう。


涙で濡れた頬が、冷たい風に晒されて、意識がはっきりしてきた。


「寒い・・・・・・・・」


私が腕を抱えると、ふと違和感があった。


次の瞬間、私は誰かに抱き締められていた。


一瞬の温もりを感じた後、後ろを振り向くと其処には誰も居なかった。


でも、漂う。


彼の匂い、柑橘系の香り。


「ねぇっ! 亮、出てきてよ・・・・・・・・・」


後ろの茂みが揺れて、亮が出てくる。


初めて見る、彼の私服だった。


「雨」


抱き寄せられる、そしてそれが自然のように唇を重ねる


前歯が当たる音がして、彼は顔を紅くする。


「やっぱ、こう言うの上手い奴のが良いか?」


「本気で言ってる? でも、上手い方が良い事は確かかも」


だよなぁ、そう言って頭を掻く。


酷く愛しくなって、亮に抱きつく


「御願い、何処にも行かないで」


「それは、出来ない・・・・・・・」


どうして? その言葉を紡ごうとするときつく抱き締められる。


こちらも力を入れて抱き締める。


ふと、腕が空を抱く。


「亮・・・・・・・・!?」


目の前に亮はもう居ない、代わりに携帯の着信音が鳴っていた。




















「亮・・・・・・」


亮を抱き締めることは出来ず、代わりに掛けられていた布団に縋りつく。


亮の母親は延々泣き続け、委員長と加奈子は抱き合って涙を流していた。


一連のやり取りを見ていた若い医者と、


私をあの時止めようとした看護師も涙を流していた。






「オイッ!! お前ら、もう泣くんじゃねえよ!!」


「だって、もう亮が目を覚まさないと思ってたんだもの」


嗚咽交じりの声で、亮の母親が言う。


「えーと、片桐さんは脳波も特に異常は無いですし、後遺症なども無し」


まぁ、事故で裂けてしまったお腹が、治るのを待つのみですね。と少し恐ろしげなことを言って部屋を後にした。


その後、亮の母親は一応夫に電話してくる、と言って部屋を後にし、


その後にすぐ、委員長と香名子も心配してる人たちに電話してくる、と口角を上げ部屋を後にした。


「ねぇ、なんであの時あそこに来たの?」


「お前・・・・・・、あ、そうか、手紙渡せてねぇのか」


「読んだよ?」


「じゃあ・・・・・・・」


「あ、追伸読んでない」


其処が一番大事なんだけどなぁ・・・・・・、そう言って亮は大きな溜息をついた。


私が封筒を開けて、追伸を読む。


0:00になったら、東町神社境内にて会いましょう。


「じゃあ、何であそこに・・・・・・・」


「亮とあそこに行く事を、ずっと前から夢見てたから」


彼は信じられないという様に、瞬きをして顔を赤くする。


「ねぇ、亮」


私は目を閉じる。


そして亮の唇に、唇を押し当てる。


時計の針は、二つとも12の文字を指し、空には青空が広がっていた。






























*--------------------* * END * *--------------------*


あはははは!長ぇええええええ!!

でも、楽しく書けたです。

因みに!

三人娘(笑)の、委員長(璃奈)と香名子のお話もありますです(予定
ですが、予定は未定なので応援してくださいねウフ(狙撃


長い話を書くのは好きです。

短く、適当に終わらせるぐらいだったら、
長く、楽しんで書きたいのです、私。
では、アデュー★


06/09/04 Ichico Akesora