私は、目を瞑った。
この青い大空の下で。
事の発端は、一つの疑問。
この夏に、私は小さな恋と、大切な思い出と手を結ぶ。
Miss 0:00になったら。
「セックスの後の男の子は、ハチミツの匂いがするらしい」
そんな事を言い出したのは、親友の香名子だった。
「嘘だぁ、セックスする男は、蜂蜜しか食べちゃいけないとか言う決まりがあんのかよ!」
委員長が言った、名前は璃奈という。
「なんか最近、香名子って乙女入ってるね」
そして、私。
私の名前は雨、私達3人はよくこんなバカな話をしている。
「何ー? 乙女が3人揃って・・・・」
同じクラスの男子の亮が話しかけきた。
「んー、ちょっとねー」
私と委員長は適当に流して、話題を逸らす。
私は、聞いたら早いんだけどなぁ・・・・・と少し思い、それから雑誌に眼をやる。
「ねぇ、片桐クンってさセックスの後、ハチミツの匂いする?」
「聞くか? 普通・・・・・・」
委員長が飽きれた様に、溜息をつきながら言う
「いやぁ、聞いたほうが早いと思って」
「いや、俺は自分の嗅いだ事ねぇし・・・・、お前ら誰かが男とセックスすれば?」
「馬鹿ね、それが出来たら聞いてないのよ」
私は雑誌を見ながら言う、本当は、亮の顔を見れなかったと言うのが正解だけれど。
「じゃあ、してみる? 俺、結構上手いぜ?」
「この中で誰がやるっていうのよ、それに――――」
そう言いながら見上げると、全員私のほうに顔を向けている。
勿論、亮までも。
「私!? 何故!?」
「いやぁ、だって私、亮みたいにカルそーな男嫌いだし」
委員長がさらりと言って述べる
「カルそー、って・・・・・・・」
内心ショックを受けたように、亮はガックリと肩を落とす
「うーん、なんとなくアタシより雨って感じじゃない? ハチミツ的に」
「理由が理不尽だよ・・・・・・、何ハチミツって・・・・・」
はぁ、と溜息をついてから、亮の方にゆっくりと向く。
「ごめんねー、冗談だからさぁ。 私となんか嫌でしょう?」
「あ? 冗談だったのか? 俺、結構如月さんの事好きなんだけど」
「いーじゃん、雨付き合っちゃいなよ。 彼氏欲しがってたでしょ」
「そーそー、片桐なんて勉強できるし、運動できるし最高じゃない?」
そういえば、そうだ。
小さい頃から彼はそんな人だった気がする
「どうする?」
「どうする? って言われてもさ・・・・・・」
「じゃあ、取り合えず付き合ってみる?」
『取り合えず』その言葉に、事の重さが薄れた気がして、頷いてしまった。
「よし、じゃあ一緒に帰ろっか」
「いきなり!? まぁいいけどさ」
「じゃあ、邪魔者のアタシ達は帰りますー、っと。」
「あ、香名子。 私の奢りでいいからアイス買ってこー」
「やったー、委員長大好きっ!」
そう言って、委員長に抱きつく香名子。
「アイス・・・・・・・」
「アイスぐらい買ってやるから」
「本当!?」
「ああ。 これからどっか行く?」
何処でもいいよー。 とか言うと部屋に連れ込まれたりしそうだから・・・・・
「俺ん宅、来る?」
「うーわー、予想範疇クリティカル★」
「何だそれ・・・・・・」
「いえいえ、貴方が、私の中の亮と一緒でオネーサンは嬉しいなぁ、ってさ」
それは、本当。
変わってないなぁ、なんて。
「貴方の家に行くったって、家近くじゃない? だから、やめとく」
小学校の登校班も一緒だったよね、確か。そう紡ぐと軽く空を見て、私の方を見る。
「だから良いんじゃねえか! ほら親もいねぇからさ、今日」
「余計マズいんじゃないの・・・・・・?」
亮は行き成り笑い出して、そういう事か、と言ってから続ける。
「大丈夫大丈夫、いきなり襲ったりしないって」
くったくない向日葵のような笑顔は、誰からも愛されるそんな笑顔。
こっちも笑いを誘われる。いつもそうだった。貴方の周りには大勢の人がいたね。
「やっと、笑った。 さっきからすっごい無表情だから嫌われてるのかと」
「そう言うんじゃないんだけど、あんま関わってなかった人と付き合うのは慣れないって言うか」
なんと言っていいのか、言葉が足りなくて、必死に五十音を繋ぎ合わせてるみたいな、私。
「まぁいいや、取り合えずコンビニ寄って俺ん宅に行こうぜ」
夕暮れ色に染まる校舎の、夕暮れ色に染まる教室を二人で後にする。
夕暮れ色に染まる校舎は、少し淋しそうに、切なそうにオレンジを滲ませ、静寂を保っていた。
「うん、アイス買ってよ?」
部活の生徒はもう帰ってしまったのだろう、一つ一つが色づいたみたいに砂はオレンジを主張し、
校舎の万緑を際立たせていた。
「綺麗・・・・・・・だな」
見上げた彼の顔に赤みがさして、八重歯が見える
「うん、とても」
「こんなの、気付かなかったよ」
「綺麗なものは、見つけるんじゃなくて。気付くものだよ」
「そうゆうもんか」
納得したように、でも語尾には疑問の色が浮かぶ。
「そう、すぐ近くにあるの。 でも汚いとこばかり見てしまう」
「そうだな・・・・、そうみたいだ。 あんなに綺麗な夕焼けなのに、切なく見える」
「うん、でもそこが良いんじゃないかな? 恋の切なさはもどかしいけど、この切なさは悪くない」
「そうだな、俺はそのもどかしさがあっての、切なさがあっての恋だと思うけど」
そうかな。言葉は空に浮かんで解けていく。
「綺麗なものは、素敵なものは、いつも近くにあるの。 無くしてから気付く人もいる」
無くした事、あるのか? 震えてる、すぐ分かった。
「何度もあるよ、大好きなくまのぬいぐるみ、飼ってたシベリアンハスキー・・・・・・」
「犬?」
「そう、辛いことも嬉しいことも彼に話してた。 些細なことでも暖かく聞いてくれてた」
「俺、親が離婚するんだ。 来月から母親と暮らす」
彼は笑っていた、悲しみの色が溶けていた。哀の感情は人から涙すらを奪う。
柑橘系の匂いが漂う、彼の香水なのか、洗剤の香りなのかは分からない。
「失ってから、気付いたの私も。 悲しくないと、仕方がないと思った」
彼が泣く場面によく会う。
小学生の頃。中学生になってすぐ。中学を卒業するちょっと前。一年前。二ヶ月くらい前。今。
小学生の頃は、近づくなっ! 来るなっ! て言われた記憶がある
一年前と、二ヶ月前にも同じ匂いが漂っていた気がする。
もしかすると、彼の涙の匂いだなんて馬鹿な事を考えてみたりする
「ほら、帰ろ。 亮の家行く?」
「今日はいい、コンビニ寄るか?」
彼の顔はまだすこし淋しそうだけれど、すこし優しい顔になっていた
ずっと心の中に溜め込むのは辛いよね、誰かに言えたから良かったね、なんて紛らわせるような言葉しか出てこない
「また今度ね、また今度」
重ねた言葉の意味は何だったんだろうと、今でも思う。
後に起こる事なんて分かるはずも無いのに。
「また今度」を言いたかった、何故か。
二人で、何の言葉も交わさないで歩く道。
何処からか音が聞こえる。
歌っている。呟くような小さな声で。
私も重ねる
小さなラブソングは何処へ向かって。
誰の心を揺さぶるの
きっと誰かに届く、それはタンポポの綿毛のように
誰もが知っている思いを、歌い続ける。
もう金色に光っていたと思っていたお日様が、すぐにオレンジの夕焼けになり。
もう見上げると月になっていた。
二人は月明かりに照らされた道を、ラブソングを歌いながら歩く。
交差点まで来ると、二人は立ち止まる。
ここから雨と亮の歩く道は違う。
「ここでさよならだね」
「おう」
「明日、夏祭りだから。 一緒に行こうか?」
「おう、・・・・・あのな」
彼はもう一度、あのなと言ってから。
「俺、小学校の頃からお前のこと好きだったんだ、カルく見られるけど」
「うん、彼女いなかったでしょ。 今まで」
男の人が好きだと一時期思われてたよ。なんて根も葉もない噂を口にする
「そんなんじゃねえから! 俺実はすっげぇ嬉しいんだ」
「うん」
「それだけだから、じゃあな」
走っていく、彼の後ろ姿を見送る。
私はいつか終わる夢を見ている、そんな気がした
闇に飲み込まれていく、彼の背中
さっきまで苦しんでた背中
踵を返して、自分の家に向かう。
今日の晩御飯はきっと、美味しい物が並ぶだろう。
そんな気がする、何故かそう思いたかった。
晩御飯はそこまで美味しくは無かったけれど、そこそこ満足できるというか。
いつもの食卓、他愛ない会話
親にお祭りのお金を少しばかり貰う。
きっと、今日は眠れないだろう
せっかくだから、朝から亮でも誘って遊びに行こうか
部屋に戻って、浴衣が何処にあるか母親に尋ねる
「ついでに、着させて上げるわよ」
「有難う、その蝶の浴衣可愛いー」
「やっぱ親子ね、私はコレでお父さんをオとしたの」
でも、身長が合わないよ、お母さんの方が大きいし。そう不満そうに呟く
「大丈夫大丈夫、もう少しぐらい伸びるし、雨はバランス取れた体してるから!」
そうかなぁ。漆黒の布に紺色の蝶が舞うその浴衣には、
私が袖を通すのが知ってたみたいにぴったりと寄り添ってくる。
まだ時間は夜、月光に濃紺の蝶が踊る
きらきら踊る蝶は職人の手に捕まって、漆黒の糸で漆黒の衣に縫い付けられる
「雨、携帯がお呼びよ?」
帯を締め終わった母親が、雨の腰を軽く押す
携帯を手にとる、委員長だ。
「もしもし? 珍しいね、電話なんて」
「雨、落ち着いて聞いてね、落ち着いて、落ち着いて」
自分にも言い聞かせてるような、震える委員長の声
「大丈夫、私は落ち着いてるよ、何があったの?」
亮の身に何かあったのだと思った。
携帯を持つ指先が痺れていく。
「片桐が・・・・・、片桐が」
「亮が・・・・・? ッもういい! 場所は!?」
「東町中央病院、学校から駅へ向かう方面に、1キロぐらい行った病院」
「わかった」
血の気が引く、さっきまで暑かった夏の空気は、何処へ行ったの。
私は、暗い闇の中に漆黒の衣で紛れて、走る
貴方を見るまで信じない、ラブソングは歌い続ける
*--------------------* * To Be continue * *--------------------*
続いちゃうんですよね。
これは元々一つの話だったんですが、長いと思いまして。
ってことで、矢印を下に付けておきますので!
→ をクリックすると、次のお話に進めちゃったりするかもです。
06/09/04 Ichico Akesora
← →